1-2誂えるということ(三)一着を育てるということ
2026.07.24
洋服は、お渡しした瞬間に完成するものだと思われるかもしれません。
けれど私は、本当の意味で完成するのは、その後ではないかと思っています。
実際にお召しいただき、日々の生活の中で身体に馴染み、その方だけの一着になっていく。
そこではじめて、その洋服の良さが現れてくるように感じます。
もちろん、長く着ていれば体型が変わることもあります。
裏地が擦り切れたり、ボタンが取れたりすることもあるでしょう。
その時は、お直しをしながらまた着ていただければと思っています。
私たちは、お納めして終わりではなく、その後も長くお付き合いを続けることを大切にしています。
祖父や父の代にお仕立てした洋服を、今でもお持ちいただくお客様がいらっしゃいます。
お直しできるようであれば、ご寸法をお直しし、傷んだ部分を補修すれば、また気持ちよく着ていただけるようになります。
その姿を見るたびに、洋服とは一度作って終わるものではないのだと実感します。
誂えるということは、一着の洋服を作ることだけではありません。
その洋服を長く着続けていただくことまで含めて、仕立て屋の仕事なのだと私は考えています。


