銀座 高橋洋服店

Essay

1-1誂えるということ(一) なぜ誂えるのか

2026.07.10

「既製服でも十分なのに、なぜ誂える必要があるのですか。」

時折、このようなご質問をいただきます。

私は、とても自然な疑問だと思っています。

現在の既製服は品質も高く、パターンオーダーでもそれなりに身体に合った洋服を作ることができます。価格を考えても、本当に素晴らしい洋服が数多くあります。

ですから私は、既製服やパターンオーダーを否定するつもりは全くありません。

それぞれに良さがあり、それぞれに役割があります。

では、なぜ誂えるのでしょうか。

私は、自分だけの一着を仕立て屋とともに作り上げることに意味があるのだと思っています。誂えとは、単に寸法を合わせることではありません。

服地を選び、仕様を考え、採寸を行い、仮縫いで確認を重ねながら、一着の洋服を少しずつ作り上げていく。その過程そのものが、誂えの魅力ではないでしょうか。

そうして完成した洋服には、その方だけの時間や思いが刻まれていきます。

背広は、本来流行を追い続ける衣服ではありません。

普遍的な形を持ち、良い素材と確かな仕立てであれば、何年、あるいは何十年と着続けることができます。もしかすると、一生を共にする一着になるかもしれません。

だからこそ私は、出来上がった洋服を選ぶだけではなく、自分だけの一着を仕立て屋と共に作り上げることに、大きな価値があると思っています。

私は、その一着をお客様と一緒に考え、作り上げていくことこそ、仕立て屋の使命だと思っています。

次回は、その一着を作り上げるために、私たちがなぜこれほど時間を掛けるのかについて書いてみたいと思います。

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