銀座 高橋洋服店

Essay

1-2誂えるということ(二)時間をかけるという事

2026.07.17

前回、誂えるということは、自分だけの一着を仕立て屋とともに作り上げることではないか、という話を書きました。

では、その一着は、どのように作られているのでしょうか。

私たちが一着の背広を仕立てるには、百時間以上を要します。

その数字だけを聞くと、「ずいぶん時間が掛かるものだ」と思われるかもしれません。

しかし私は、時間を掛けること自体に価値があるとは思っていません。

大切なのは、その時間を何に使っているかです。

まず型紙は、一枚の紙にゼロから線を引き作成します。

現在では、コンピュータで型紙を作成する技術も広く普及しています。もちろん、それを否定するつもりはありません。

ただ私は、手で型紙を引くことで、お客様一人ひとりと向き合い、その方にとって最も良い一着を考える時間が生まれると思っています。

肩の傾きや胸の厚み、腕の付き方、姿勢の癖。採寸した数値だけでは分からない特徴を加味しながら線を引き、その方だけの型紙を作っていきます。

 

裁断も同じです。服地には、それぞれ異なる個性があります。

一番大切なのは、地の目を正しく整えることです。

耳付近の歪みや傷の有無を確認しながら型紙を配置し、チャコで写していきます。柄物であれば柄合わせも考え、一着一着手で裁断していきます。

 

そして仮縫いでは、実際にお召しいただき、立ち姿や歩き方、腕の動きなどを確認します。

数字だけでは分からなかったことが見えてくることも少なくありません。

補正が必要であれば、その内容を型紙へ反映し、新たに本縫い用の裁断を行います。

仮縫いは、そのまま仕上げるためのものではありません。

一度すべてを解き、修正した型紙で改めて裁断を行い、本縫いが始まります。

この工程をお話しすると、多くのお客様が驚かれます。

「一度組み上げたものを、また解いてしまうのですか」と尋ねられることも少なくありません。

しかし、私たちにとってはごく当たり前の工程です。

仮縫いは完成品を少し直すためのものではなく、本当にその方に合った一着を仕立てるための工程だからです。

決して効率の良い仕事ではありません。

それでも、必要であれば型紙を作り直し、裁断をやり直すことを惜しまないのは、その方にとって最も良い一着に近づけたいと考えているからです。

その後、修正した型紙をもとに本縫いへと進みます。

ジャケット、ウェストコート、トラウザーズは、それぞれを専門とする職人が責任を持って縫い上げます。最も時間を要するのも、この本縫いの工程です。細かな手仕事を積み重ねながら、一着の洋服が完成いたします。

そして完成した洋服は、店頭で私自身が最終確認を行ったうえでお納めいたします。

お召しいただいた際の着心地はもちろん、ご要望どおりに仕上がっているか、そして私自身が思い描いた一着になっているかも、最後まで確認させていただきます。

私は、その一つひとつの積み重ねが、お客様だけの一着を作り上げるのだと思っています。

次回は、そうして完成した洋服が、お納めしたあと、どのような時間を重ねていくのかについて書いてみたいと思います。

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