銀座 高橋洋服店

Essay

第3回 オーヴァーコート考 1

2012.12.10

寒くなってきて、オーヴァーコートを着ている人が目につくようになりました。一方では相変わらずコートなしで寒そうに首をすくめて歩いているビジネスマンが居ることに、違和感を覚えるのは、私だけでしょうか?

ヨーロッパから毎シーズン提案されてくるスーツ地が、どんどん軽くて薄くなっている一方で、オーヴァーコートの素材は一向に薄くも軽くもなっていません。理由はエアーコンディショニングの普及で室内は年間を通じて快適な温度に保たれている一方、地球温暖化と言われていながらも、冬のヨーロッパの屋外は未だかなり寒いからなのでしょう。室内では軽いスーツで軽快に過ごし、寒い外に出る時はしっかりしたオーヴァーコートを着たうえマフラーを巻き、手袋をはめ更には帽子まで被って寒さから身を守りましょう、という考え方なのです。オーヴァーコートはヨーロッパでは必需品なのです。

かたや日本です。昔の日本家屋は暖房装置が十分でなく室内が寒かったため、人々はそのまま外出できそうなくらい下着をたくさん着込んでいました。その習慣がいまだに抜けきらないのか、寒くなれば自動的に長袖の下着にズボン下を着込んでしまっていないでしょうか。そのままコートなしで外出したとします。外でも寒くないかもしれませんが、そのまま室内に入れば最近は汗をかくほどの暖かさです。汗をかいたまま再び外に出て急激に冷えれば血管が一気に収縮。これは生命にかかわる重大な問題だと、お医者様に教わりました。暖かいところに入ったら、コートもマフラーも手袋も、帽子だって脱ぐことができますが、着込んでしまった下着は脱ぐことはできません。

半世紀も前になるでしょうか、コットンギャバディンのレインコートに取り外し可能なウールのライナーを付けて“スリーシーズンコート”と称したものが登場して大流行し始めました。その後しばらく世の中からウールのオーヴァーコートが姿を消してしまった時期がありましたが、やはり真冬にいくら寒さはしのげるといってもコットンのコートは見た目も良くありません。矢張りあれはあくまでもレインコートであり、冬にはオーヴァーコートを着ていただきたいものです。

自家用車が普及して目的地の玄関先まで車で移動できるようになったことにも後押しされて男性のオーヴァーコートは不要となってしまった時代でも、女性はちゃんと毛皮のコートを着ていました。ホテルの玄関口で女性は豪華なコートに身を包んでいるにもかかわらず、エスコートする男性はコートも着ずに、ポケットに手を突っ込んで寒そうに歩いている姿を目にすることもしばしばです。

かつてナポリのサルト、アントニオ・パニコは「オーヴァーコートは防寒だけのものではない。ホテルやレストランのクロークに預ける時のことも考えなくてはならない。だからステイタス・シンボルとして相応しいものを着て居なくてはいけないンだ」と教えてくれました。

寒ささえしのげれば何を着ていても構わない、という考え方を是非改めなくてはいけないと思います。

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