銀座 高橋洋服店

Essay

第36回 スーツを着るなら…

2023.08.25

すっかりクールビズが浸透してしまったため、最近ではほとんど“死語” に成ってしまいましたが、かつて“カジュアルフライデー”という言葉が存在しました。
「金曜日にはスーツを脱いで気楽な服装で出社、リフレッシュした気分で仕事をしよう」という試みでした。
ビジネスウェアーのカジュアルダウンの先駆けでした。この時一番困ったのが中間管理職の中年社員氏達だったと言われています。
スーツとパジャマとゴルフウェアーしか持っていなかったおじ様たちは、まさかパジャマでは会社に行けないと考え結局ゴルフウェアーで出社することになりました。

この時も、服装の乱れについて随分嘆かわしく思ったことを記憶しています。
クールビズの時もビジネスウェアーのルールが滅茶滅茶になってしまいました。
このエッセーでも何回か書かせていただきましたが、あの時は「それはビジネスウェアーと言わないだろ」という感覚でした。
今回はスーツは来てはいるものの、その着装法にあまりにも目に余るルール違反が多いので、気が付いた事を私なりに考えたいと思います。

そもそも「スーツでノーネクタイ」というのは、私は絶対にルール違反だと思っています。
しかしこの傾向は今やインターナショナルになってしまい、国際会議の席で世界のトップ達がスーツは着ているもののノーネクタイでテーブルを囲んでいる時代です。しかし彼らとて、正式な記念写真撮影等の時はきちんとネクタイを締めています。
銀座の洋服屋のオヤジが1人で“だめだダメダ”と言って居るのがなんだか空しくなってきました。
でも私はやっぱり駄目だと思っています。自分ではやりません。

次は鞄です。私はスーツの時には手提げのビジネスバッグを持つべきだと思っています。
勿論荷物が無い場合は手ぶらでもいいし、小物だけの場合は今では当たり前になってしまったクラッチバッグ(正式名はなんというのでしょうか?)を持っても良いと思います。
1976年私が留学が終わってロンドンから帰って来た時、当時ヨーロッパで流行り始めていた小さなクラッチバッグを抱えて帰ってきたら、「ナンダ女性みたいにハンドバッグなんか持って…」と随分非難されました。
話をもとに戻します。
最近のビジネスパーソンの持ち物にPCが加わっています。小学生のランドセルの中にもちゃんとタブレット入れがついているくらいです。荷物が重くなっているのは十分に理解できます。
しかし「スーツに肩掛けバッグ」はそぐわない。ましてリュックサック型の鞄に至っては何をか言わんや、です。
満員電車では“前に抱えてください” という車内放送の注意を無視して周囲に迷惑を掛けている人が沢山います。
これはまあビジネスパーソンに限ったことではありませんが。私は以前からスーツ着用の時はダレスバッグ(GHQのマッカーサーに会いに来たジョン・フォスター・ダレスが持っていたカバンを銀座の谷澤鞄が命名した)を愛用しています。
当然荷物の量によって他の鞄も使いますが、リュックはカジュアル以外に使いません。

先日結婚式に参列するのだろうと思われる若者に電車の中で遭遇しました。
一応スーツ姿でネクタイもぶら下がって居ました。(とてもネクタイを締めているとは言えないような結び方だったので…)ちょっと足元に目をやると、なんと黒のレースアップの靴は履いていましたが、グレイの踝までしかないスニーカーソックスを履いているのです。「ドーシテコウナッチャウノ?」
確かに極端な例かも知れませんが、私は一瞬頭を抱え、次に悲しくなりました。
注意してみていると、スーツにスニーカーソックスというビジネスマンを時折見かけます。それがエスカレートしたのかどうか、最近ではスーツにスニーカー姿が増えています。クールビズやらビジネスウェアーのカジュアル化で、スニーカーでの出社が認められているのかも知れませんが、やはりモノにはバランス、コーディネーションが必要です。
街では女性のワンピースにスニーカー姿も頻繁に見受けられるようになりました。
かつてニューヨークのOL(英語でもこれで良いのでしょうか)が、通勤で怖い目にあっても走って逃げられるように、通勤はスニーカーでもオフィスに就いたらハイヒールに履き替える、という話を聞いたことがあります。
私はレディースの事は分かりませんので、コメントできませんが、男性のスーツにスニーカーはやはり間違いだと思います。

今回はスーツ着用時に「私が間違っている」と思う事の中からいくつか書かせていただきました。
いつかビジネスウェアーのカジュアルダウン現象についても思うところを書きたいと思っています。

 

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