銀座 高橋洋服店

Essay

第5回 セットアップ・スタイルを考える 1

2013.04.01

ジャケット&トラウザーズ セットアップ・スタイルを考える 1

“紺ブレ・スタイル”と呼ばれた、ネイヴィブルーの生地にブラスの釦が付いたジャケットに、グレイのトラウザーズを合わせたスタイルが、海外のビジネス・シーンで認知されてからどのくらいの歳月が流れたでしょうか。本来“ブレザー”とは、所属するクラブやティームのユニフォームとしての性格が強いジャケットのことを意味していましたが、ブラスの釦が付いたネイヴィブルーのジャケットを、アイヴィー・リーグ出身のビジネスマン達がアメリカのビジネス・シーンで着用したのが始まりといわれています。(ブレザーについは拙著『「黒」は日本の常識、世界の非常識』に詳しく述べてあります) しかし、コンサーヴァティヴな日本のビジネス・シーンではスーツ以外の上下異なる素材のセットアップ・スタイルはなかなか普及しなかったようです。

そこに最初の風穴を開けたのが“カジュアル・フライデー”という陳腐な発想でした。“金曜日には上下違ったスタイルで、気分転換をして仕事に臨みましょう”と言う考え方そのものは悪くはないと思いますが、ここでまたしても日本的な発想がせっかくの気分転換を台無しにしてしまいます。「金曜日にはスーツは禁止」というおかしなルールを創造する会社まで現れます。

スーツとゴルフ・ウェアとパジャマしか持っていない中年ビジネスマンは、「まさかパジャマで会社にはいけないだろう」と考えてゴルフ・ウェアで出社することになり、スーツとTシャツとデニムそれにスゥエットしか持っていない若手社員は、「スゥエットはまずいだろう」と一応は考えて、Tシャツにデニムで出社に及ぶことになります。これは極端なたとえでしょうが、一様に何を着るべきか、大いに苦労されたようです。

そしてついに“クールビズ”という、ドレス・コードを無視したシステムが導入されるに至って、日本のビジネスマンの服装は、完全に乱れてしまいました。すべては、「スーツを脱いだ時に何を着るべきか」というルールを設ける前に、「とにかくスーツはダメ」という珍妙なお達しだけが出てしまったことの弊害なのです。意味不明の“ノーネクタイ”が義務付けられた結果、スーツ姿でネクタイを外しただけ、という安易で掟破りの出で立ちがまかり通ることに成ります。
専門家の間では、1666年に出されたチャールズ二世の「衣服改革宣言」によって、ジャケット、ウェストコート、シャツ、トラウザーズ、そしてネック・ウェアがセットになった、現代の男性の背広三つ揃えの着装法の起源が出来上がったと言うのが定説になっています。第二次世界大戦中に、英国の節約令でウェストコートが禁止になって、背広上下が誕生しますが、世界中を探してみても、ネクタイを禁止すると言う考え方を聞いたことはありません。スーツ着用でノーネクタイ姿を見るたびに、何らかの罪を犯して身柄を確保される背広姿のビジネスマンが、警察によってネクタイとベルトを取り上げられた時の姿を思い出すのは、私だけでしょうか。

それではネクタイを外したビジネス・ウェアには何を着ればいいのでしょうか?
最も相応しいのは一般的にジャケットと呼ばれる替え上着に、替えズボンをコーディネイトさせた、セットアップ・スタイルです。この装いならば、ネクタイを締めても外しても、決してルール違反にはなりません。

次回は、このセットアップ・スタイルについてもう少し詳しくご説明しようと思います。

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