銀座 高橋洋服店

Essay

第27回 ポケットチーフを考える(1)

2017.02.10

近頃テレビのニュース番組や報道番組を見ていて感じることがいくつかあります。その中の一つが司会者やアンカーマン、コメンテイター達の服装です。彼らの服装が余りにもカジュアルで、真面目な番組に出演するのに相応しくない装いが多いことです。洋服民族が登場するBBCやCNNの出演者達はもっときちんとした服装で登場しているような気がします。一方で、中にはきちんとスーツ、しかも三つ揃えを着用している出演者を見掛けることも多くなりました。昨年あたりからウェストコート(チョッキ)復活の兆しが感じられます。更にもう一つ気が付いたことは、きちんとポケットチーフを挿している人達が増えたのではないか、ということです。

なかなか一般のビジネスマンにまで浸透はしていないようですが、前回のコラムに書かせていただきましたが、スーツ姿にネクタイはなくてはならないものです。同様にポケットチーフもマストアイテムなのです。是非共恥ずかしがらずに挿していただきたいと思います。

今では当然の存在となっている上衣の胸ポケットですが、その登場はそれほど古いものではありません。現在のスーツの祖先が誕生(1860年頃)する少し前、1830年頃に当時着られていた上衣に初めて作られたことがありますが、それも定着したものではありませんでした。1880年代後半に初めて登場したディナージャケットですが、その胸に常にポケットが作られるようになったのは、登場から40年も経った1920年頃と言われています。19世紀後半に正装として着られていたフロック・コートにも、胸ポケットは作られていたりなかったり様々でした。個人の好みや仕立職人の感覚によるところが大きかったようで、胸ポケットが完全に定着するのは20世紀に入ってからです。

そもそも胸ポケットはなぜ作られたのでしょうか。はっきりしたエヴィデンスは見つかりませんが、その中で「従来袖口にしまっていたハンカチをしまうのに、もっと便利なように」という「ハンカチ用ポケット説」が信憑性が高そうです。日本では考えられませんが、イギリス人は器用に片手で洟をかんだハンカチを、今でも丸めて上衣の袖口にしまいます。

腕を動かした時にハンカチが落ちてしまわないために、最も簡単にしまえる位置にポケットを新設した結果が、「胸ポケット」というものです。あまり美的話ではありませんが、確かに実用的です。

少し遡りますが、18世紀になるとハンカチーフは一気にぜいたく品になります。その時代の男性にとって贅をつくしたハンカチで洟をかむことが一種のステイタスだったようです。そして1世紀後、せっかくの奢侈なハンカチを飾る場所として胸ポケットが考案されたというのは、なんだか納得できるような気がします。

このような経緯を考えると、胸ポケットが存在する以上ハンカチを挿すべし、というのも納得していただけると思います。

今では胸のポケットに挿す布を“ハンカチーフ”とは呼びません。一般的に日本では“ポケットチーフ”と呼んでいますが、これは和製英語。正式には“ポケットスクウェアー”と呼びます。

このような胸ポケット誕生の経緯を知れば、そこにポケットがあるからにはチーフは挿されているべきなのだ、というのもまんざら極論ではないように思えてこないでしょうか。

ビジネススーツといえども胸ポケットは、ボールペン・万年筆・名刺入れや携帯電話入れではないことを忘れないでいただきたいと思います。

次回はもう少し具体的にポケットチーフを考えてみたいと思います。

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