銀座 高橋洋服店

Essay

第15回 衣替え

2014.12.08

学生時代、6月1日からは夏服の制服、10月1日から冬服の制服、その前後一か月程度は移行期間。という制度があったのを覚えていらっしゃることと思います。これがいわゆる衣替えという制度であることは皆様良くご存知のはずです。

衣替えの制度は一般的に平安時代に始まったといわれています。当時は陰暦の4月1日、10月1日に衣替えが行われました。鎌倉時代になると、衣服だけでなく調度品まで季節によって取り替えられていたともいわれています。

江戸時代になると衣服の種類も多くなってきたため、武家社会では5月5日、9月9日にも衣替えが定められました。つまり1年間を合服―夏服―合服―冬服と着かえて過ごしたということです。

明治政府が役人、軍人、警察官の制服を洋服と定め、同時に衣替えの習慣を制定しました。やがてこの制度が学生服や民間企業の制服に浸透し、一般の人々もこれにならって衣服の入れ替えをするようになったものと思われます。

現在のクールビズ、スーパークールビズの期間は、概ねこの制度を踏襲して定められたものではないかと想像できますが、地球温暖化が原因で前後に長くなっているようです。

11月になり、あの忌まわしいクールビズの期間が終了しました。通勤電車の中のサラリーマン諸氏がやっと立派に見える季節になったのです。スーツの中に本来着用されているべきネクタイが締められているかどうかで、これほど人の外見が変わるというのは、まさに“驚き”以外の何物でもありません。

「服装は個性を発揮するための手段として極めて有効である」と思っている人の割合を、年代別・性別で分析した結果、50代男性がもっとも低く40%に満たない、というショッキングな記事を新聞で読みました。なんでもネクタイは組織に所属している“ただの印”なんだとか・・・・。ちょっと昔のビジネス雑誌のアンケートでは、「初対面の人の第一印象は服装が大切」とする人が殆どなのにもかかわらず、多くの人が「自分の着る物はあまり気にしていない」という、矛盾した回答をしていたのを思い出しました。

人は易きに流されます、ネクタイを外した感想を聞かれた日本国民を代表する政治家氏が“楽ですね”と言い放ちました。楽ならどんな格好でも構わないのでしょうか。ビジネス・フィールドでは、楽な衣服でいないから、きちんとした仕事ができるのではないでしょうか。

本来ならば、現役バリバリのビジネスマンが、服装に頓着しなくなり、ネクタイを億劫がる発想にしてしまったクールビズの罪は重いと思います。

海外の政治家やトップ・エグゼクティヴ達は、専属のスタイリストを雇って、自身を如何にアピールすべきかを常に考えている、と言われています。ネクタイ1本にしても、大切なプレゼンテーションで、自分自身を強く印象づけなくてはいけない場合は赤系を。清潔感や冷静さをアピールしたいときはブルー系を。そして相手に精神的な安定や充実感を感じて欲しいときはグリーン系のネクタイを締めるなど、オケイジョンによってネクタイを使い分けています。それほど大切なネクタイを、“単なる組織への帰属の印”とは、いつから日本の男性はこんなにダメになってしまったのでしょうか。

朝、自分の今日一日のスケジュールをチェックして、着用する背広、そしてそれに締めるネクタイを考えて出勤するビジネスマンが、いったい世の中にどの位いるのか。是非一度調べてみたいものです。

この期に及んでクールビズを中止せよ、などといっても無駄なのは承知しています。ただ、例えクールビズ期間中であっても、ちゃんとした装いをしたい人の権利を奪うのは間違いではないでしょうか。

平成の衣替えの時期に、改めて“服装”について考えさせられました。

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