第31回 今どきの背広事情を考える その2

かつて背広を購入するためには旅行を止めたり、外食を控えたりしてあらかじめバジェットを作って購入したものでした。本来背広はそんなに安いものではないのです。しかし現在では海外旅行に行くは、星付きのレストランで食事をするは、高価なワインは飲むは。その結果予算が無くなり、某店の9,800円の背広を購入することになります。一見流行のスタイルではありますが素材はチープ、縫製は手抜き、体形には合っていないで、1・2回の洗濯で型崩れとほころびが始まります。こんな背広が車内を席捲しています。

タイトフィッティングと言えば聞こえはいいですが、パツンパツンで窮屈な服。短すぎてお尻丸出しのジャケット丈。高すぎるジャケットの第一釦やゴージ。ズボンは細すぎてしわくちゃ、折り目も無くなり象の鼻状態。股下寸法は少なくても5㎝は短いでしょう。挙句の果てに踝までしかないスニーカーソックス。これではもう何をかいわんやです。

新年になって、賀詞交歓会などでいろいろな方面の方々にお目に掛かる機会がたびたびありました。相当の役職の方でもちゃんとしたスーツをお召しになっていらっしゃるのをお見受けすることは希です。

クールビズの季節になると、訪問してきた営業担当者の第一声が「すみませんこんな格好で」

「ナラ、ちゃんとした格好で来いよ」と言いたくなります。本人達もクールビズスタイルがビジネスに相応しくない事を理解しているのが、せめてもの救いです。

先日某メガバンクが年間を通してカジュアルで勤務して構わない、という方針を発表したのは皆さまご存じの事と思います。最も堅い職業の銀行マンの服装が果たしてそれでいいのでしょうか。その結果かどうか、因果関係は分かりませんが、大手ロードサイドショップが減収・減益になったとか。クールビズがスタートした日、ネクタイを外した感想を聞かれた当時の内閣総理大臣の感想が“楽ですね”でした。開いた口が塞がりませんでした。果たして楽な服装で仕事に臨めば本当に効率が上がるのでしょうか。きちんとした服装で仕事に臨んだ方が、緊張感をもって仕事ができるという考えもあります。

取引先がカジュアルスタイルで仕事をしている時に、スーツにネクタイで訪問すると相手が恐縮するから・・・、等という理由から、カジュアルスタイルで営業に訪問するのは果たして正しい考え方なのでしょうか。スーツ姿の来訪者に恐縮するくらいなら、スーツ姿で対応すればいいし、カジュアルが会社の決まりならば、カジュアルで堂々と対応すればいいだけのことです。“恐縮する”の陰には何か“マズイ”という感覚が隠れているのではないでしょうか。

こうして服装がだんだん劣化してゆく状況を見ていると、「悪貨は良貨を駆逐する」という経済学の法則を思い浮かべてしまいます。

イタリアの高名なサルトと話をしていた時「イタリアでもスーツを着る人口は激減している。でもスーツを着なければいけない立場の人たちはちゃんとしたスーツを着ている。だから我々のビジネスはまだ安泰だ」と言っていました。確かにイタリアには日本のロードサイドショップのような安価なスーツを売っているところはありませんでした。翻って日本です。日本ではまだ背広を着なくてもいい職種の人までなんとなく習慣的に背広を着ているように思います。背広を着る必要のない職種の人は背広を本当に止めてしまえばいいのです。今はただなんでもいいから背広さえ着ていればいいというのが現状ではないでしょうか。もっと背広を着なくていい立場の人を増やせばいいのです。その代わり背広を着なくてはいけない職種のそれなりの地位・立場にいる人は、きちんと地位・立場に相応しいスーツを着なければならない、という自覚をもって頂きたいと思います。

仮定の話にはなりますが、一定の地位にならないとネクタイを締めたり、背広を着たりしてはいけないという制度は如何でしょうか。

取引先を訪問するとき、一人はノーネクタイ、もう一人はネクタイを締めてはいるがスーツは着ていない。残りの一人はきちんとスーツを着ていれば、上下関係がすぐにはっきりわかります。

またどこかの会社を訪ねて、対応に出てきた社員がネクタイをしていなかったとします。

すぐにこの人は平社員だとわかります。ネクタイをした人が出てくれば一応役付き、背広を着た人が出てくれば部長以上。こんな風に、それなりの地位にならなければスーツは着られない、という風にすれば、背広を着られる地位の人はプライドでいいスーツを着てくれると思います。

霞が関でこの制度を採用すれば、室温28度であっても背広を着る人が出てくること間違いなしです。

今から3~40年程前、「近い将来背広は世の中から無くなるのではないだろうか」と話題になりました。ただ今のように酷い背広が世間を席捲するとは予想していませんでした。背広に代わる何かの出現はあるかもしれないと考えても、品質低下が原因の形態変化が起こるとは、我々は想像もしませんでした。

 

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